https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38800816 原文は左記リンク先にあります。

全頭脱毛症に対する改良型多血小板血漿療法

まとめ

円形脱毛症 (AA) は、瘢痕を残さない脱毛を特徴とする自己免疫疾患と現在は理解されています。 重症化すると「全頭脱毛症」に進行することもあります。
★ここでは円形脱毛症の治療としてトリアムシノロンアセトニドと併用した多血小板血漿 (PRP) 療法が効果的であることが証明されています。

■日本ではPRPは厚労省管轄のためあまり自由に変法はできません。 申請どおりにしないと場合により許可が取り消される場合があると聞いています。そのため、この報告は試してみたい内容にはなりますが、PRPと多剤の混合は日本では簡単ではないように思います。 申請の段階で許可がでればよいですが・・・許可が出るためにはかなりのエビデンスが必要になります。現在の日本では許可がでないと予想します。■

はじめに​

円形脱毛症 (AA) は、瘢痕を残さない部分的な脱毛を最も特徴とする自己免疫疾患です。
単発,多発型の円形脱毛症は約80%が自然寛解するとされていますが,重症化すると頭皮全体 (全頭性脱毛症) や体毛 (汎発性脱毛症) に進行することがあります。

治療法として多血小板血漿 (PRP) は、血管内皮成長因子、血小板由来成長因子、形質転換成長因子などの成長因子を刺激することで発毛を促進すると考えられています。

PRPにより真皮乳頭周辺の細胞増殖と血管新生が促進され、毛包周辺の血液循環が促進され、線維芽細胞成長因子 -7 の発現増加によって成長期が延長することで発毛が促されます。

一方、トリアムシノロンアセトン (TrA) などの低溶解性ステロイドは、T 細胞を介した免疫攻撃を抑制することで抗炎症および免疫抑制の役割を果たします。

病変内 TrA =トリアムシノロンアセトン と併用した PRP変法が紹介されています。

■日本ではPRPは自由診療という事もあり,多くの症例報告はありません。
2024年円形脱毛症ガイドラインでもある程度のエビデンスはあるが,保険診療ではない事,施設が限られる事から推奨しない・・・となっているようです。

当院にも円形脱毛症の患者様がこられますが,選択肢として提示はします。 ただ自由診療なので料金の問題は大きく全員の方が選択できるわけではありません。 ただ,たくさんの報告を調べていると,ステロイドの局注よりも寛解,再発防止には有効である・・・という報告が多いです。

たまに有効でない,という報告もあるますが,多くは多血小板血漿(PRP)がシングルスピン法で作成されていたりします(ダブルスピン法;遠心を二回使用する事,この方法の方が明らかに濃いPRPが作成できるます)。キット,作成方法が複数あり統一されていないために比較しずらい研究方法となります。当院の方法は京セラ(厚労省認可,ダブルスピン法)のキットを使用しております■

文献の症例について​​

20代後半の女性が、頭頂部の脱毛が部分的だったのが6か月間続き、その後2か月で頭皮全体に進行し頭皮全体の脱毛症となりました。

週2回連続2日間パルス形式でプレドニゾロン40 mg錠剤を服用し、アザチオプリン50 mgを毎日服用したそうです。さらに5%ミノキシジルの局所塗布を併用し改善が見られました。3か月間継続しています。 その後、経口ステロイドを漸減したところ1か月の間に再び頭皮全体に進行したため、これまでの治療の継続と同時に修正PRP注射を行うことになったようです。

PRPはダブルスピン法で調製されました。PRP 3.5 mlを40単位の目盛りが付いたインスリン注射器に採取し、35単位の目盛りまで採取し、残りの5単位を10 mg/ml濃度のトリアムシノロンアセトニドで充填されました。■(この濃度は原液とおもわれます)さらに混合したと読み取れます。薬液を混合する場合にはかなり慎重な実験が必要だと思います。 混合するための基礎実験のようなことがなされているのか? がかなり重要ではないかと思います。記載はないようですが・・
局所麻酔クリームを45分間塗布し、頭皮全体に1cm間隔で0.1 mlを皮内注射しています。
初回のセッションから4週間後、新しい毛髪が生え始めたと報告されています。

このような治療を4週間間隔で4回繰り返し、経口ステロイドを徐々に減らしていきました。
以前のPRP未修正の治療と比較して、毛髪が太くなり密度が増加するなど、顕著な改善が見られました。彼女は、1日1回の5%ミノキシジル外用薬とアザチオプリン50 mg錠の投与を継続し、定期的なフォローアップを行いながら、今後3か月で徐々に減らしていく予定でした。
■アザチオプリンは免疫抑制剤です。免疫抑制剤を使用するのはかなりの重症という感じに受け取れます■

議論​

AAの第一選択治療の一つとして、トリアムシノロンアセトニドなどの病巣内コルチコステロイドであり、頭皮には5~10 mg/ml、発毛が見られるまで4~6週間ごとに繰り返します

ステロイドの選択肢としてトリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサアセトニド、ヒドロコルチゾンアセテートなどがありますが,トリアムシノロンアセトニド(商品名ケナコルトA)はも萎縮性が低いため、病変内投与製品としてよく使用されます。 トリアムシノロンアセトニドで治療したAA症例では、3か月の追跡期間中の再発率は、限定的なAAで29%、全頭脱毛症で72%という報告です。全頭型の円形脱毛症の方が明らかに再発が多いようです。重症化した円形脱毛症は再発が多いという事です。

全頭脱毛症と全身性脱毛症は予後不良の指標となります。

この報告ではPRP と Tトリアムシノロンアセトニドの併用が全頭脱毛症の有効な治療選択肢となる可能性があることを示しました。なぜなら、PRP は、全身免疫抑制の長期化に関連する副作用を防ぎ、その副作用を隠してコルチコステロイドを徐々に減らし、発毛を維持できるからです。 ただし,自分が読んだ論文で混注(PRPとステロイド)の使用は初めて読みました。 安全性の問題に関して基礎実験をしっかり行っているのか? は重要です。論文にはこの点の記載がありませんでした。

トリアムシノロンアセトニドは皮内用50mg/5mL と 筋注用40mg/mL があるので注意が必要です。 円形脱毛症の患者様に使用するのは皮内用の50mg/5mL です 濃度として 5~10mg/mL を使用することが日本では多いようです。 はじめは5mg/mL で開始し,効果をみて10mg/mL に増量します。 総量は10mg/day とした方がよいでしょう。

保管に関して注意事項。寒冷時には凍結を避けること。冷所での保存は推奨されません。製品を10℃以下で保存すると注射液中に凝集が発生することが報告されている。凍結した製品や冷所で保存された製品は使用しないこと。皮下硬結の発生リスクがあります。 使用時は良く混濁する必要があります。
■PRPとトリアムシノロンの混合に関しては当然資料はありません。 これを日本で使用する場合にはかなり慎重に行う必要があると考えます。
筋注用のもので,最高血中濃度は3時間後 ,有効血中濃度は2~3週間持続します。皮内用には資料がありませんでした。■